私たちはこれまで、歯や口の中の問題がどれだけ患者さんの健康や人生に影響を与えているかを目の当たりにしてきました。
そんな私たちだからこそ危機感をもって真剣に目指していることがあります。
それは、患者さんの健康をつくること。
たとえばその一つとして、メタボリックドミノをできるだけ上流で止めることがあります。
メタボリックドミノとは、下図のようにう蝕や歯周病に引き続いて、そこから重大な疾患につながっていくというもの。
重大な疾患になる前には、その方からある種の信号が出ています。その信号をいち早く察知し改善するチャンスが歯科医院には与えられています。
なぜでしょうか?
その信号は歯や口の中に出てくることが多いからです。そして、歯科医院は重大な疾患になる前の患者さんが定期的に通院してくれる唯一の医療機関だからです。
病院で医師に治療を受けなければならない段階でもはや少し遅いのだと感じています。
次の図のように、橋から落ちてケガをした人を助けるのは、病院や専門医に任せなければなりません。
ただ橋を治して、ケガ人を出さない、あるいは、橋から落ちそうな人を救うことがこれからの歯科医院でできると考えています。
私たちはいつも通院してくれる患者さんの歯や口の中に体からの信号が出ていないかを診ています。さらに併設内科と連携して体からの信号もできるだけ察知する努力を始めました。
そして危険信号が察知された患者さんを改善に導くすべも知っています。
そのすべとして絶対欠かせないことが2つあります。
それが、歯や口の中の問題点改善と歯や口の健康状況に合わせた食習慣の改善です。
だけど簡単にはできません。そのことを理解してくれる歯科衛生士と管理栄養士の協力が必要です。
だから私たちは今、歯科医院で患者さんの健康をつくるという目的に共感し、仲間となってくれる歯科衛生士と管理栄養士を探しているのです。
医療法人OMSB 中垣歯科医院
患者さんが健康になるプロセス。あまり知られることがありませんが、そこには必ず歯科衛生士と患者さんの物語があります。
歯科衛生士として働くやりがいも自分の成長もどんな物語をつくるかで変わってきます。
では実際にどんな物語があるのでしょうか?ここでは中垣歯科医院で働く歯科衛生士の事例を物語でご紹介しています。
あらすじ
街づくりプランナーとして、全国を飛び回って仕事をしていた坂上さん。バイタリティあふれる61歳の男性。病院は嫌いで検診も受けていなかったが、元気だし、健康には自信があった。
ただ最近朝起きたときの口の中の気持ち悪さや歯肉の腫れを自覚していた。近隣歯科医院で歯周病と言われ応急処置を受けるもあまり改善しなかった。中垣歯科医院に来院し、歯周病治療を行うことになったが、そのときの検査で糖尿病であることが発覚し、緊急入院となってしまう。
――――糖尿病と歯周病の関係や歯科医院で患者さんの全身の健康をみる重要性について教えてくれる物語。
患者さんは坂上隆文さん、三重県在住の61歳(当時)の男性。街づくりプランナーとして、全国を飛び回って仕事をするバイタリティーあふれる方だ。
坂上さんは病院が嫌いで健康診断は受けていなかったが、元気だし、健康には自信があった。ただ最近、朝起きたときに口の中が気持ちわるいことを自覚していた。たまに歯肉も腫れている気がする。そんな中、奥さんに口臭を指摘されることがたびたびあった。
「もしかして歯周病じゃない?病院で診てもらおうよ。」
病院嫌いの坂上さんだったが、そんな奥さんのすすめもあり、歯科医院くらいなら行っても良いかと受け入れ、近くの歯科医院を受診した。
近くの歯科医院では、歯肉が腫れている部位にペリオフィル(歯周病治療用軟膏)の注入のみ行う処置で終わり、後はちゃんと歯磨きしておくように指導を受けた。
「あまり改善した気がしない。もう少し根本的に改善することはできないのだろうか?」
坂上さんは、その気になったらとことんやるタイプ。
歯周病治療をちゃんとやってくれそうな歯科医院を色々と調べて、少し遠かったが大阪府豊中市の中垣歯科医院に来院することにした。
中垣歯科医院には坂上さんのように県外から訪れる患者さんも多い。
「坂上さんはじめまして歯科衛生士の仲です。本日はよろしくお願いいたします。」
坂上さんを担当したのは、衛生士歴6年目の仲さん。一見おっとりしているようにみえるが、実はとてもしっかりしている。物腰が柔らかく患者さんに安心感を与える雰囲気があり、人気が高い。
仲さんは新卒未経験で中垣歯科医院に就職した。そのときのエビソードは少し特殊だった。
別な歯科医院に就職が内定していると思っていた仲さんは、国家試験合格発表後、友達と卒業旅行に出かけていた。しかし旅行中、内定が決まっていたと思っていた歯科医院から他の歯科衛生士を取ることが決まったと連絡が入る。
旅行から帰って、また一から就職活動を始めることになった。
たまたま募集をしていた中垣歯科医院の面接に来たのが、その年の3月30日。中垣歯科医院に向いている人だったのですぐに採用がきまり、4月から正社員として働きだした。
ゆっくりとしたペースではあったが、患者さんとちゃんと向き合いながら、着実に想いに応えることのできる歯科衛生士に成長していった。
5年以上月日が流れ、仲さんは今や中垣歯科医院の歯科衛生士として第一線で活躍し、後輩の教育をするようにまでなっていた。
そんな仲さんが最初に、坂上さんのカウンセリングを行った。
中垣歯科医院では、歯科医療者と患者さんとがきちんとコミュニケーションをとることをとても重要視しているため、初診に2時間半~3時間くらいかけている。ここで患者さんと密に関わるのは、歯科衛生士の役割となっている。
仲さんはカウンセリングで坂上さんのこれまでの経過や想いを聴き、そのあと、口腔内診査、歯周組織検査、口腔内写真、位相差顕微鏡による細菌検査を行った。
(以下はその検査結果)
仲さんは患者さんとのカウンセリングと検査の結果を副院長の内藤先生に報告。
内藤先生と仲さんはその結果から慢性歯周炎及び歯根破折と診断し、坂上さんと今後の治療方針について話し合いを行った。
自分の口腔内細菌を位相差顕微鏡の画像でみた坂上さんはとても驚いた様子だった。
「口の中にこんなヘビみたいな奴らがいっぱいいるんですか!?気持ち悪いですね。」
坂上さんは今回できるかぎりのことをしたいと、より高度な自費の歯周病治療を受けることを希望された。
すでに坂上さんとの信頼関係はしっかり築かれていた仲さんが、引き続き、自費の歯周治療も担当することとなった。
中垣歯科医院では、自費の歯周病治療を行う患者さんには、さらに詳しい検査(細菌遺伝子検査、口臭ガス測定、唾液検査)を行っている。
これによりさらにその患者さんの現状をより明確に示すことができる。きちんと検査をして、指標をもつことは歯周病をコントロールする上でとても重要なことだ。
(以下はその検査結果)
検査を終え、状況を把握し、歯周病治療にとても前向きになった坂上さんだったが、治療を始める前に予想外のことが起こった。
歯周病治療初日、チェアサイドで血糖値を測定した。血糖値の状態と歯周病の状態は深い関係があるため、自費の歯周病治療の場合には、必ず血糖値を測定している。
その結果、400mg/dl(空腹時)ととても高かった。(126mg/dl以上だと糖尿病と診断される。)
仲さんは、その結果をすぐに内藤先生に報告した。
「糖尿病の可能性が高いね。なんらかの合併症が起こっている可能性もあるから、先に病院で専門医に診てもらおう。自覚症状はないみたいだけど、合併症が始まっていなければ良いが。」
合併症の可能性を疑い、先に糖尿病の治療を優先した方が良いと判断した内藤先生は、すぐに専門医に紹介状を書いた。
仲さんは、坂上さんに状態を説明した。
「坂上さん、確か長年健康診断も受けてないっておっしゃっていましたね?体の状況が、口の中の変化としてあらわれてくることもあります。これをきっかけにはやめに一度体の状況もちゃんと調べておきましょう。歯周病治療の結果にも大きく関わってきますし。」
「そうなんですね。わかりました。まさか糖尿病だとは思っていませんでした。全然自覚症状はありませんでしたから。外食ばかりしているからでしょうか。良い機会だと思って、まず病院に行ってみます。糖尿病の方を優先して治療を受けて、それから歯周病治療という形でも良いんですか?」
「もちろん良いですよ。その方が歯周病治療の結果もより良いものになると思いますよ。」
病院嫌いの坂上さんだったが、理解してくれて、すぐに病院に行ってくれた。今回の仲さんのように身内ではなく、信頼できる第3者のアドバイスは受け入れやすかったりするものだ。
程なくして、坂上さんを担当した糖尿病専門医の先生から手紙が届いた。
糖尿病専門医の先生からの手紙。そこにはこう書いてあった。
「2型糖尿病と診断し、糖尿病教育入院とさせていただきます。このたびは貴重な症例をご紹介いただきありがとうございます。」
貴重な症例だと。
歯科医院から直接、糖尿病患者さんを紹介されることは、おそらく珍しい。歯周病患者さんに対し、血糖値を測る歯科医院も少ないのが現状だろう。
だから患者さんによほどの自覚症状が無いかぎり、紹介することは珍しい。ただ自覚症状が出てからではかなり状態は深刻になっていることも多い。その前に受診をすすめたい。
坂上さんの場合には幸い、各種検査(24時間CCR、安静時心電図、負荷後心電図、リズム心電図、頸動脈エコー、眼科検査)の結果、重大な合併症は起こっていなかった。
ただ、血糖値は219mg/dl、HbA1cは11.1%(基準値は4.6~6.2%)でかなり高い。ただちに教育入院となり、血糖降下薬の投薬、食事制限、運動療法が行われた。
2週間の入院予定だったが、坂上さんがよほどストイックに頑張ったのか、実際は10日間で退院した。
退院後のHbA1cは8.1まで下がっていた。
退院後に坂上さんは中垣歯科医院に来院し歯周病治療が始まった。
ここでも坂上さんはとても一生懸命取り組んでくれ、状態はかなり改善されてきた。食事制限、運動療法も続けているということだった。
歯周病治療を一通り終え、再度検査を行い評価した。
(以下は歯周病治療前後の検査結果)
各種検査すべて改善傾向にある。
中垣歯科医院では、歯科衛生士がこのような検査や記録をしっかり取り、管理する体制をつくっている。このことは、指標をもって状態を維持するという意味で患者さんのためではあるが、歯科衛生士としても、ちゃんと自分たちの仕事が患者さんのためになっているのかを判断するためにとても役に立つ。
歯周病治療が終わる頃には、坂上さんの体重は当初から10kgはやせており、HbA1cは6.1まで下がっていた。
歯周病治療終了時には、まだ血糖降下薬は飲んでいたが、専門医からは、このまま安定してたら、薬も止めて良いとの許可が出るまでになった。
(以下は血糖値とHbA1cの変動グラフ)
「トータルヘルスという言葉が本当ぴったりですね。ここにきて良いきっかけを与えてもらった。ほんと命を救われた気分ですよ。もちろん、口の中も今はだいぶすっきりしているし。まだまだ健康でいられそうです。」
坂上さんは歯周病治療後、そう言ってとても満足した様子で治療後のアンケートを記入してくれた。
(歯周病治療を受けた患者様のアンケート用紙)
担当した歯科衛生士の仲さんも坂上さんとの関わりを振り返りこんな感想を残してくれた。
「坂上さんは、当院への受診がきっかけでご自身の全身状態を把握し、生活習慣が大きく変わりました。悩みであった口臭の改善はもちろん、口の中の爽快感、そして何より、『中垣歯科医院に来て、今までの考え方が大きく変わった。口の中だけでなく全身も健康にしてもらった。』と言って頂いたことがとてもうれしかったです」と。
坂上さんは、今、これまで苦手にしていた長距離を走ることにもチャレンジしているらしい。
元気に過ごしていた坂上さんでしたが、そのままの状態を放置していたら、本当に近い将来重大な合併症を起こしていたかもしれません。
歯科衛生士の仲さんは坂上さんの良き健康相談役として信頼関係を築くことができたので、病院嫌いの坂上さんでしたが、健康に導くことができたと言えます。
歯科衛生士の仲さんが、坂上さんを健康に導き、坂上さんの命や人生を救ったと言っても過言ではありません。
当院では、そんな健康相談役としての役割もこれからの歯科衛生士の重要な仕事だと考えています。
仲さん自身も、5年前は新卒未経験で何も分からない状態だったのが、今では自分の行った仕事が患者さんの役に立っている実感を得ることができるようになっているようです。
実際に患者さんの思いにちゃんと応えることができ、とても信頼される歯科衛生士になっています。
ちなみに事例に載せているスライドは歯科衛生士の仲さんが作成したものを一部使用させてもらっています。
(仲さんの実際のスライドや症例発表を見たい方はこちら)
最後まで読んでくれてありがとうございます。
最後までこの記事を読んでくれた方は、おそらくこのような仕事に向いている方だと思います。
一緒にやってみませんか?
もしご興味のある方はご連絡をください。